HASSELBLAD X1D II 50Cのレビューです。世にあまり出回っていない機種らしく、ヨドバシカメラなどカメラ店以外の民間人による日本語レビューは2021年8月時点で数えるほどしかありません。そんなニッチな機種のレビューを行うことでPV数を稼ぎたいこのカメラを直接手に取って購入検討できない方々に向けて、少しでも参考になればと考えています。
私はこのカメラを2021年6月に購入しました。実は2度目の購入になります。1度目の購入は2020年末。アクセサリープレゼントのキャンペーン(予備バッテリー、チャージャー、レリーズコードが無料で手に入る!)に釣られて本機とXCD 4/45Pのセットを新品購入したものの、あまりの使い勝手の悪さに1週間で売却してしまいました。そんな私が半年の空白期間を経て何故本機を買い戻すに至ったのか。その経緯をお話しすることで、本機の持つ引力を表現できるのではないかと考えます。
全てを話すととても長くなってしまうので、レビューを2回に分けたいと思います。本記事は前後編のうち前編になります。(2021. 8. 25修正:長くなってしまったため前中後の3編に分けることにしました。)2020年末の最初の購入経緯と売却に至った理由を、残念な感じでお送りいたします。あらかじめ断らせて頂くと本記事(前編)はとても辛口です。気を悪くされる方もいらっしゃるかもしれませんが、今後のレビューでは作例含めポジティブな内容を書いていく予定ですので悪しからず…
2020年末。当時私はLEICA SL(typ 601)を愛用していました。LEICA SL(typ 601)は、あの「ライカ」のカメラでありながら、現在に至っても最新機種に比肩しうるスペックを備え、さらにその洗練されたUIとボディの圧倒的質感により所有者にコスト以上の満足感を与える名機として知られています(私調べ)。しかし、私にはどうしても納得の行かない点が出てきてしまいました。それは「画素数」と「画作り」という2つの縛りです。
2021年現在、35mmフルサイズ一眼において2400万画素というスペックは主流にあたります。またライカは長らく「写真を楽しむなら2400万画素以上は不要」というスタンスをとってきたと云います。しかし、そのライカでさえ4000万画素超のカメラを次々とリリースし、世の主流はついに2400万画素超の高画素へシフトを始めたと感じます。元々私は5DsシリーズやNIKON Z 7、D850等の高画素モデルを多く使用し、そのトリミング耐性に大いに助けられてきました。また「20年後の高精細ディスプレイで今の写真を見返したとき、がっかりしたくない」という思いが徐々に頭をもたげてきたのです。
また「ライカの画作り」、これが当時の私には徐々に納得のいかないものになってきていました。ライカの画作りは目で見る色に対して極端に「渋い」のです。ネット上でライカの開発者のインタビューを読むと「ライカはレンズで見たままを再現するからライカなのである」といった主旨の発言がよく見受けられるのですが、現在のデジタルライカにおける「ライカらしさ」とは、レンズの性質ではなくその極端に渋い「画作り」のことなのでは?とも思えてきてしまいました。その「画作り」に縛られて、「いかにもライカらしい」写真しか撮ってはいけないような気分になってしまうのです。(もちろん上級者の方にとっては、そんなことはないと思いますが…)
そんな悩める私の物欲は、気づけば中判デジタルの世界に向けられていました。その中でも特に私を悩ませたのが富士フイルムとハッセルブラッド、どちらが良いのか?(ミラーショックと可搬性の観点からペンタックスは除外していました、すみません…)という悩みです。共に普通に買える値段ではありませんが、結局私がハッセルブラッドを選んだ理由は「色」でした。
富士フイルムといえばフィルムシミュレーション。なので「色」にこだわるなら富士フイルムなのでは?と思われる方もいらっしゃると思います。しかし当時の私には、写真の方向性が、ユーザーではなくメーカーの作り込んだ意向によって決まってしまうということが逆に違和感だったのです(富士フイルムファンの方、すみません。フィルム写真の時代には、人は自分の好みの画作りを表現するためにフィルムを選んでいたといいますし、その点富士フイルムのアプローチは、元々の写真の文化、楽しみ方に対して全く正しいことだと思うのですが、デジタルから写真を始めた初心者の私の主観では、そうではなかったのです)。その点ハッセルブラッドにはカメラ側でピクチャースタイルを変更するという概念がそもそも無い。「当社が誇るHNCS(Hassselblad Natural Color Solution)により最もナチュラルな素材を提供するから、あとは撮った人が自分で工夫してね」という哲学。この潔さが、私の琴線に触れたのでした。
かくして私は、当時集めていたライカシステムをすべて手放し、HASSELBLAD X1D II 50CとXCD 4/45Pを購入したのでした。
電源を入れるまでは良かったのです、電源を入れるまでは…
それまで使っていたライカSLが良くできたカメラであったがゆえに、一言でいえば、落差が大きすぎました。
初めての実地投入で私はコテンパンに叩きのめされたのでした。一番堪えたのは、やはりその遅さです。ちょっと子供と散歩に出かけて、さあ良い写真が撮れそうな構図になったぞ!と思ったとき、電源を入れて撮影可能になるまで5秒以上かかる。AFが決まるまで3秒かかる。そしてAFが決まったときには子供は既にどこかへ行ってしまっている。ならばとAFを捨ててMFに切り替えてみたものの、EVFが微妙に見にくい、拡大表示された画面のドットが粗くてピントの山がさっぱりわからん、これでは画質云々以前に写真が撮れない。乾坤一擲、一世一代の買い物で手持ちのライカシステムは全部売り払ってしまった。私は絶望しながらもう一度機材一式を丁寧に梱包し直し、購入価格マイナス17万でなんとか売りに出したのでした。
X1D II 50Cをボロクソにけなす記事を書いてしまいましたが、今振り返るとこれらのネガティブな印象は、このX1D II 50Cというカメラの目的と立ち位置を、私が根本的に勘違いしていたことが原因なのだと思います。XCD 4/45Pという比較的小さなレンズと組み合わせた印象から、このカメラが「気軽に速射可能なスナップカメラ」だと誤解してしまった。私がこのカメラに期待していたことが、カメラの性格と完全にずれていたのです。
結局私は「X1Dとはどんなカメラなのか」について改めて考え直し、その結果、売却の半年後に改めて本機を手に取ることになりました。結局のところ本機は「動かないものをじっくり撮る」カメラで、その前提に立ってみると急に世界が開けてきたのです。次回のレビューでは2回目の購入にあたり私が考えたことを、少しじっくりと述べていきたいと考えています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。