PHASE ONE 645DF+ / IQ280レビュー

本記事の概要

PHASE ONE 645DF+ / IQ280のレビュー記事です。カメラ自体はすでに売却済みですが、ただのアマチュアが純然たるプロ機を使うとどうなるのか?の一例として記録を残したいというのが執筆の動機です。よろしくお願いします。なお、私の主な用途は家族写真/スナップですので、主にスタジオユースや三脚を据えての風景撮影が想定されているこのカメラをスナップで使うとどうなるか?という点も併せて書いていきたいと思います。

購入の経緯

私はただのアマチュアながら、分不相応にもHASSELBLAD X1D II 50Cを2度購入/売却、さらにLEICA S(typ007)を使用していた、下手の横好きの極致のような人間です。下記リンクのレビューのようにLEICA S(typ007)には少しの不満はあれどかなり満足していたのですが、

  • どうせならセンサーの一番デカいやつを使いたい
  • 世に言う「CCDの色」というのを試したい

という欲望が頭をもたげてきた頃に、手持ちのライカ資産をなげうてば何とか手に入る価格の中古品が出現し、チャンスは今しかないのでは?と清水の舞台から飛び降りる勢いで購入を決めました。また、フェーズワン/マミヤ系システムは、5万円程度で買える古いAFレンズ(設計は比較的新しい気がする)との互換性があるので、ライカSやハッセルHまたはXのようにレンズが高すぎて買えないということもない(拡張性が高い)と言う点も魅力でした。実際、私は80mm/2.8(換算48mm)、45mm/2.8(換算27mm)を、合わせて10万円以下で仕入れることができたので、マウントの強みをうまく生かせていたかなーという気がします。

外観・質感・操作性

妻から「プレデターみたいなカメラ」と言われました。それを言うならエイリアンでは

さて、人生初のデジタルバック式カメラです。やはりデカくて重いです。とはいえボディのグリップが深く握りやすいので、右手の指4本をグリップに引っ掛けて持ち運ぶスタイルであれば、重いですがそれなりに安定して持ち運べます。ストラップにはピークデザインのアンカーを使用していましたが、何となく怖いので、ストラップを掛けていても常に右手でカメラを持ちながら移動していました。結果、撮影の翌日は大抵筋肉痛になっていました…

デジタルバック(IQ280)は洗練された北欧デザインという感じで、X1Dを扱っているような滑らかな高級感がありますが、ボディ(645DF+)の方は正直プラスチッキーな感じが強いです(お金さえあればボディもXFにしたかった…)。シャッターボタンやその他の操作ボタンは概ね小さく、「ポチ」っとクリック感のあるタイプで押しにくいです。そのため操作性は良いとは言えないですね…グリップもシボの無いラバーで殺風景な感じです。ボディの梨地塗装は案外丈夫で、カメラストラップの樹脂パーツとファインダー上部が擦れてもストラップの樹脂パーツのほうが削れていました。

IQ280の液晶やタッチパネルについては、新品価格で車が買えるレベルの高級品とは言っても10年以上前の製品なので、液晶の鮮やかさや精細さ、操作のサクサク感については最新機種に劣ります。再生画面での拡大表示ももっさり気味で、拡大してもピントが来ているかどうか判別するのには慣れが必要です。しかし、現場では写真が撮れているか?の確認程度にしか使わないと決めればそこまで困りませんでした。

※購入時点で液晶に貼ってあった保護フィルムを(なんだか怖くて)外さずに使っていたのも、画面の鮮明さがイマイチだった理由かもしれません。マトモに使用してないのにネガティブなレビューをしてしまいすみません。IQ用のGRAMASが販売されているようですが、通常のカメラ用であれば2500円程度のところ、6000円以上するので恐ろしくて購入できませんでした。

ライブビューの誤算

大きなネガティブ要素無く運用できるカメラではありますが、今回の購入にあたり1点大きな誤算がありました。旧型のPシリーズに対するIQシリーズのメリットとして「ライブビュー撮影ができる」という点があり、実際私もライブビュー撮影ができることをかなり期待してIQシリーズを購入しました。しかし実際に普通の室内や屋外でライブビューを使ってみると、画像の上下が黒く中心部分は緑がかったような不完全な画像が表示され、しかも画像のリフレッシュレートも多分3fpsくらいしか出ていないという不可解な状況になってしまうのです。(レビューに使えそうな動画など残しておけば良かったのですが、なんじゃこりゃ…と当時結構ショックを受け、撮るのを忘れてしまいました。)

信頼できる販売店で整備済み品を買っていなければ故障を疑うところでしたが、おそらくCCDセンサーならではの仕様なのだろうとは思いつつサポートセンターに問い合わせると次のことが分かりました。

・IQ280 はCCDセンサーのため、明るさをコントールできるスタジオ撮影以外では、ゲインコントロールがオーバーフローしてしまい、ライブビューが乱れる。ISO 感度を変更しても、センサーに受ける光量は変わらないため、改善されない。

・スタジオ撮影の場合は、ライティングの明るさを暗くすれば解決する。屋外の撮影では、ほとんどの場合NDフィルターが必須となる。

…つまり、この機種(おそらくCCDセンサー搭載のIQシリーズ全般)におけるライブビューは、光をしっかりコントロールして使うものであって、スナップ撮影的な状況を想定したものではないということなのですね。問い合わせの結果、私がモグリだということが露見してしまう恥ずかしい結果になりました。サポートセンターの方、お手間を取らせてしまい申し訳ありません。

また、IQ2シリーズはwifi接続によりiPadなどからライブビュー画像を確認しつつリモート操作ができるのですが、上記の理由により結果としてあまり使い道がないという残念な結果になりました。完璧にライティングを作り込んだスタジオや、NDフィルターを活用した長秒露光のシチュエーションなどでは、ライブビュー機能が役に立つことでしょう。

※参考記事:デジカメWatch「カメラ用語の散歩道」https://dc.watch.impress.co.jp/docs/column/yougo/1483948.html

技術的に難しい内容のため「なるほど、わからん」状態なのですが、CCDセンサーはセンサー画素の情報読み出しがCMOSセンサーに比べ原理的に難しい、ということを言葉ではなく心で理解しました。昔のCCDセンサーのデジカメや、まともに動画が撮れないSIGMA DP Merrillシリーズなどは、おそらくライブビュー表示や画素情報読み出しに相当苦労していたのでしょうね…温故知新というか、昔のカメラ設計の苦労を垣間見た気がしました。

フォーカスしやすさ

フォーカス速度はさほど速くなく、動き物には使用できないレベルですが、精度についていえば迷いも少なくかなり精確だと思います。これまでに使ってきた中判(ラージフォーマット)カメラの中では、使用感はS007(純正レンズ使用)以下、X1D II以上という感覚です。645DF+は比較的古いボディなのでAF性能が心配でしたが、さすがはプロ機という感じです。

フォーカスポイントが中央1点しかないのでコサイン誤差を考慮する必要がありますが、f5.6以上で運用すればほぼ気にならないことに気づきました。それに、絞ることはAF精度に対する保険にもなります。このあたりの運用については、スナップ撮影ではフォーカスがまともに合わないX1D IIの使用経験を通じてかなり鍛えられた気がします。

光学ファインダーの見えやすさは必要十分という感じです。魔法のようだとか感動するだとか、そういった官能に訴えかけるものではないという気はしますが十分ピント合わせに使えます。というか、ライブビューが実質使用不可なので、意地でもファインダーでやり切るしかないという事情もあります。

総じて、2024年現在の基準に照らし合わせても、ラージフォーマットカメラという土俵においてはそこまで不快感なく使えるという印象でした。

画質

Mamiya AF D 45mm/2.8 + IQ280 f2.8, 1/160, ISO100

8000万画素というのは私がこれまで使用したセンサーの中では最も高画素なのですが、意外にも目が痛くなるような精細感は無く、あくまで自然に解像しているという印象です。このような印象はレンズの特性によるものなのでしょうか。例えばライカSシステムなどは、645フルサイズに比べ小さいセンサーにも関わらずかなり巨大なレンズを多数擁しており、ズマリット70/2.5などは絞り開放から恐ろしい解像とキレを誇りますが、私の使っていたレンズはフィルム時代から使われていたものであるため、単純に解像性能が低い、もしくはさほど解像を重視していない可能性があるのかなと思いました。

画作り、ホワイトバランス等については、変な癖を感じない自然な表現という感じで、かつてS007で感じていた変な色の転びは無く、扱いやすいという印象です。IQ280で撮った写真は、常用しているLightroomではなく敢えてCapture Oneを使って編集していましたが、上記の特性はCapture Oneの性質や、センサーとソフトの相性からくるものなのかもしれません。また、心なしかノスタルジックな表現になる気がします。

Mamiya AF D 45mm/2.8 + IQ280 f8, 1/180, ISO100

季節も条件も違うため一概に比較できませんが、同じ場所、ほぼ同一画角(換算27mm)で撮ったX1D II 50Cと表現を比べてみます。おまけで画角違いですがS007で撮った写真も比べてみます。(上:IQ280、中:X1D II 50C、下:S007)

Mamiya AF D 45mm/2.8 + IQ280 f16, 1/20, ISO35
XCD 35-75mm(35mm), f8, 1/500, ISO100
Distagon 45mm/2.8, f8, 1/350, ISO100

色温度は統一できていないのですが、印象はかなり違いますね。そもそも1番下のS007は色調整があまりうまくいっていない気がします。IQ280の写真は自然な空間の拡がりを感じさせるさすがの描写ですが、X1D II 50Cの方が緑が鮮やかに強調され、ぱっと見で「映える」感じです。

同様に、NIKON Z7で撮った画像とも比べてみます。(上:IQ280、下:Z7)

Schneider 80mm/2.8 + IQ280 f8, 1/270, ISO35
Z24-70mm/2.8S(55mm), f11, 1/160, ISO72

なんだかZ7のほうがパッキリ(映える感じで)撮れている感じがします。私の個人的感想ではありますが、絞った風景においてはセンサーサイズの差で何かが劇的に変わるということはない気がします。センサーサイズなどよりも、光の条件など本質的なことを意識しないと、いくらフェーズワンで撮ってもしょぼい写真しか撮れないということだと理解しました。

高感度耐性については「そういうカメラ」ではないので全く期待はしていなかったのですが、(シャッタースピードを稼ぐためやむを得ないという事情込みで)ISO400程度までならノイズは多少気になるものの全然使えるという印象です。むしろ家族写真などを撮る際には、ノイズがノスタルジックな味になる気がします。シャッタースピード確保の観点から、晴天の屋外ならISO100程度、屋内ならISO400程度までを使う気持ちでいるとよさそうです。余談ですが、このようなカメラなので、購入当初、室内撮影では手持ちのニコン用ストロボ(Profoto A1X)をマニュアルで使用する想定でいました。しかし、645DF+の説明書を読んでいると、「非対応のストロボをクリップオンで使うと壊れる可能性がある」と書かれており、怖くて結局一度も使いませんでした。Profoto対応のワイヤレス撮影用コマンダー機能がついている純正の縦グリップ(V-Grip)を買えば良かったのかもしれませんが、生産完了品らしく中古でも10万超えなので購入を断念しました。この点、最新ボディのXFであればそもそもボディにコマンダーが内蔵されているので、やはりXFを使ってみたかった…

また、当初半信半疑ながら期待していた「CCDの色」というものについても、私の目では大きな違いを感じることはありませんでした。CCDの色というより、その時代に流行っていた画像処理のトレンドが反映されているということなのだと思います。実際、私も「5Ds/5DsRあたりのキヤノンの画作りが好き」とか、そういった好みはありますし、それと同じレベルの話かなと思いました。

手放した理由

とにかく「故障が怖い」の一言に尽きます。入手した値段は新品価格の1/4以下でしたが、だからこそ、デジタルバック(特にセンサー)が故障しようものなら幾らの請求が来るか全く読めません。ひとたび故障が発生すれば、高額な修理費用もしくは下取りの大幅減額によりカメラ資産運用が完全に破綻します。しかも厄介なのが、このクラスのブツになると通常の宅配便での保障対象である30万円を大幅に超えてくるため、輸送中に不慮の事故が起きても完全自己責任です。高値で取引しやすいオク/フリマでの販売もこれらのリスクを考えると容易ではありません。結局、故障が怖くてなかなか持ち出せなくなり、ならば正常動作している間に売るしかない…と結論づけ、泣く泣く売却に至りました。結局、分不相応な物を持つべきではないのです。

その他雑感

以下、使用する中で気付いた雑感などをとりとめもなく書いていきます。

・ボディ、バックともに電池の持ちはまあまあ良い(100枚くらいは確実に持つ、あまり出先でシャッターを切れないのでこのくらいで良い)のですが、ボディ(645DF+)側のバッテリーが不足すると、肝心な時に「AFは効いてもシャッターが切れない」モードに至ります。バッテリーのマネジメント、大切です。

・ボディのアイカップが案外外れやすいです。道端で2、3度落としました。無くすとどうやって買えば良いのか分からないので大変です。

・デジタルバックの取り扱いは大変です。センサーを傷つけずにちゃんと脱着できるか、きっちり装着できているか、いちいち気になります。説明書には、振動による故障対策のため運搬時はボディとデジタルバックを分離するようにと書かれていますが、脱着作業が怖くて結局殆どボディにつけたままでした。代わりに、車での運搬にはめちゃくちゃ気を遣いました(信号待ちのアイドリング振動でカメラが壊れるんじゃなかろうかといつも怯えていました)。

・意外とスローシャッター耐性があります。シュナイダー80/2.8を使っての室内撮りでは、三脚無しで1/50くらいなら普通に止められ、1/20の成功例もありました。

・ファインダー内水準器は無いので、水平を取るのは結構難しいです。絵心のある人ならば水準器は不要という噂を聞いたことがあるのでさほど問題ではないと思います。

以上、雑感でした。

おわりに

本記事では、アマチュアによる使用例の少ないPHASE ONE 645DF+ / IQ280に関する情報をとにかく増やすことを目的に、雑多な内容ではありますが所感を書き連ねてみました。

作例は変わり映えのしない風景ばかりですが、実際は家族のスナップ撮影に大いに役立ちました。撮影枚数は少ないものの、確かな質感を持った印象的な写真をたくさん撮ることができました。その点で、高い買い物ではありましたが、なかなかできない体験をさせてもらったと思います。

長文でしたが、最後までお読み下さった方々、ありがとうございました。

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