LEICA S(typ 007) レビュー

本記事の概要

LEICA S(typ 007)のレビュー記事です。日本語記事があまりない機種なので、これから購入検討される方の参考になれば…というのが執筆の動機です。よろしくお願いします。

Table of Contents

    はじめに

    2021年秋、縁あってLEICA S(typ007)を入手しました。それまで使っていたHASSELBLAD X1D II 50Cを手放しての購入になります。購入の簡単な経緯については下の記事に書いた通りです。X1D II 50Cの画質は基本的に気に入っていたものの、2度目のNIKON D850購入にあたり光学ファインダーの良さを再発見し、私は次に進むべき道として光学ファインダー付きのデジタル中判カメラに照準を定めたのでした。

    購入事前検討

    さて、本記事で取り上げるLEICA S(typ 007)をはじめ、ライカSシステムを導入されている方のブログを拝見するとよく書かれているように、ライカSシステムに関する民間人のレビュー記事というものは、残念ながら日本はおろか英語圏を探しても殆どありません。よってこの機種について知りたいと思ったならば、英語圏のレビュー記事やら動画やらをシコシコと探して断片的な情報を読み取っていくしかありません。私にとって購入の決め手になったのは下の動画でした。グァムのカメラマンの方のようですが、まさに私と同じくX1D II 50CとLEICA S(typ 007)を併用の上で両機種の比較レビューをされています。(ちなみにこの方、今はSを売ってLEICA SL(typ 601)に乗り換えられたようです。やっぱりSLはとても良いカメラですからね…)この動画で最も参考になったのが両者のAF速度の比較です。「LEICA Sのほうが速い」と明確に言及されています。X1D II 50Cの遅すぎるAFに悩まされていた私にとっては、かなり購入の追い風になりました。というか、この1点だけで購入を決めたようなものです。それだけX1D II 50CのAFは遅かったということです…

    そんなこんなで、私はこのカメラを手元に迎えたのでした。

    外観・質感

    LEICA S (typ 007) + Summarit-S 2.5/70 ASPH.
    基本となる組み合わせ。

    とても重厚でマッシブなデザインです。軍艦部はメッキというよりペイント的な質感で、R8/R9、SLと同じデザイナー(マンフレッド・マインツァー氏)の作ということですが、個人的にはSLのほうが好みです。ですがブログ用に改めて写真に撮ってみると、非常に均整の取れた美しいカメラですね。うん、これは美しい。

    プッシュボタンにもなる背面ダイヤルの質感はSLのほうが上だと感じます。しっとりとした感触ののSLに比べ、こちらSのダイヤルはプッシュのストロークが大きく、ダイヤルを回すと内部のバネがカチカチ不安定に動く感じがあります。またダイヤルのボタンが固く、個体差があるかも知れませんが反応もあまり良くありません。AF-ONボタンを兼ねるジョイスティックも固く、SLのほうが個人的には好みです。何よりこのジョイスティックですが、Sはフォーカスポイントが中央1点しかないのでライブビュー撮影しない限りはちょっと宝の持ち腐れ感があります。発売時期はさほど変わらないものの、ボディやボタンの質感はお値段5分の2のSLのほうが残念ながら上です…

    グリップについては、直線基調のSLに比べるとよりエルゴノミックで、片手で握りやすい形状ではありますが、グリップが案外浅く、あまり深く握り込むことができないため保持するにはかなり握力と手首の筋肉を使います。使用中はさほど気になりませんが、次の日手首が筋肉痛になります。このあたり、元々使っていたX1D II 50Cのほうがずっと良いです。

    フォーカスしやすさ

    X1D II 50Cからの乗り換えの最大の要因であるAF速度についてですが、Summarit-S 70mm/2.5 ASPH.で使う分には、AFはなかなか速いです。X1D II 50CのコントラストAFみたいにむやみにウォブリングしないのが気持ち良いです。純正アダプタを介してCONTAX 645のレンズを使うと、レンズによっては(Distagon 2.8/45など)AFが結構遅くなります。というか、AFボタンを押してから0.5秒後くらいにようやくAFモータが回り始めるような不可解な動作になります。ちなみに別のレンズ(Sonnar 2.8/140)は結構スピーディに動いてくれました。

    フォーカスポイントが中央1点しかないのはやっぱり使いにくいです。絞り開放付近でポートレートを撮る時には、コサイン誤差が気になります。プロはコサイン誤差の分だけMFで微調整したりするんでしょうか。私はまだその境地には至れていません。同じ中判レフ機のハッセルブラッドHやフェーズワンXFは、同じく中央1点フォーカスながら、コサイン誤差を自動補正するフォーカス調整機能が付いていますので、その点はかなり羨ましいです。

    AF速度に加えてX1Dからの買い替えの大きな要因の一つであった光学ファインダーですが、海外レビューなどで「夢のよう」などと言われているほど広くは感じません。他に所有しているD850が優秀なファインダーを備えているので私の感覚がバグってしまったのでしょうか…でも、Sのファインダーを覗いた後にSLのEVFを覗くと、あの素晴らしいEVFが「あれ、こんなに暗くて不鮮明だったっけ…」と感じてしまったりするので、やはりSのファインダーは素晴らしいと言って良いのではないかと思います。ピントの山は掴みやすいです。最新のEVFの拡大表示にはさすがに劣りますが、Sのライブビュー液晶が92万ドットと粗めで、また画面のコントラストや色がちょっと変なこともあって、三脚使用時にもライブビューではなく光学ファインダーのほうを積極的に使いたくなります。ライブビュー時のAFは遅いですが、そこまで絶望的に遅いということはありません。風景撮影になら結構使えるのではないかと思います。

    画質

    LEICA S(typ 007) + Carl Zeiss Distagon T* 45mm F2.8, ISO100, f22, SS1/2s

    さすが、有無を言わさぬ高画質です。何故だかやはり、f16以上に絞っても35mmフルサイズより立体感のある画が出てきますね…センサーはピクセルピッチ6μmのCMOSで、世代的にはSLと同じはずですが、SLより懐の深さを感じますし、ダイナミックレンジも広く現像耐性が高いです。非純正のCONTAX 645用レンズと組み合わせてもかなりはっきり写りますのでレンズ遊びも捗ります(別記事を執筆予定ですが、CONTAX 645レンズはなかなか良いです)。

    ホワイトバランスの精度は正直微妙です…現場である程度調整しても青っぽくなったり緑っぽくなったりするので、撮って出しはあまり使えません。CONTAXレンズをつけた時よりLEICAのSマウントレンズをつけた時のほうが、若干色の出方が自然な気がします(CONTAXを使うと室内写真が青っぽくなったりします)。やはりこういうところはメーカー純正のほうが良いですね。ただ、いずれにしても色の良さはX1D II 50Cに圧倒的に軍配が上がる感じです。この点だけは、やっぱりX1Dを売らなきゃ良かった…と思う点です。

    画作りについてですが、他の方のレビュー記事でも書かれているように「いかにもライカ」な渋くて陰影を強調した画ではなく、より素材的な、自然な画が出てきます。とはいえライカっぽい陰影の感じなどはあり、ポートレートを撮ると圧倒的な存在感が出ます。ここもまた個人的には嬉しいポイントです。SLで撮る写真は、うまくハマると最高な画が出てきますが、大抵の場合は渋すぎますから。

    高感度耐性についても、SLと同世代のセンサー、同じピクセルピッチのはずなのに、なぜかSLより1段は上だと感じます。ISO1600まではほぼノイズレスで階調も豊か、ISO3200でもかなり使える印象です。これは正直嬉しい誤算でした。

    機能性、その他雑感

    以下、使用する中で気付いた雑感などをとりとめもなく書いていきます。

    ・意外に重宝するのが無線LAN接続によるスマホへの画像転送です。SLとは接続時の振る舞いに極端な差があります。SLですが、専用アプリとの接続(ペアリング)まではスムーズにいくものの、その後の画像転送が全く進まずカメラ内画像のサムネすら表示されない始末です。やっと接続できても転送速度が遅すぎて、正直使い物になりません。その点Sは、一度繋がってしまえば画像転送は比較的サクサク進みます。ですがカメラ側の無線LAN機能をONしてからアプリとの接続が可能になるまでに何故か1分くらい待たされるので、慣れるまでちょっとイライラします。とはいえSLよりはずっと使いやすいです。

    ・ちょっとモヤモヤするのが絞り(f値)調整の自由度です。なぜか1/2絞り刻みでの調整しかできず、1/3刻みなどへの変更は不可。普通の日本製カメラやSLみたいに1/3刻みで使いたい…

    ・たまにフリーズします。フリーズしたら電源も切れなくなるので、おとなしく電池を抜くしかありません。

    ・プロ機としては結構な欠陥だと思うのですが、たまに画像が記録されないことがあります。LEICA S 007を使用されているhamashunさんのブログ(http://hamashun.org/archives/2261459.html)で触れられている「真っ黒い画像が保存される」症状ではなく、私のカメラでは画像そのものが保存されていない状態になります。ライブビュー撮影の後に記録されないケースを多く体験しているので、ひょっとするとライブビュー状態で連続撮影し画像処理エンジンがビジーになると、操作はできるが記録を受け付けない状態になるのでしょうか?私は2度程手酷く失敗しているので、それ以来撮影後にはこまめに記録画像を確認する癖をつけています。

    ・一応4K動画が撮れますが、ドットバイドットのSuper35サイズ(APS-C)になります。ズマリット70mmなら105mm相当で、正直使いにくいですし動画画質もそこまで良く無い気がします。意外と嵌まるポイントですが、SDカードでしか動画記録できない仕様のようです(デュアルスロットのCFカードでは録画不可)。しかも、十分速い速度が出るはずのSDカードで数分撮ったところ「カードの書き込み速度が遅いので録画を中断します」と出て勝手に録画が中断されてしまいました。私は子供のお遊戯会でこのミスを犯しました。ミスの許されない晴れ舞台ではちゃんとした動画機を使った方が良いです…

    ・ラージフォーマット仕様の巨大なミラーを動かす関係で、シャッターショックはそれなりにありますがそこまで大きいとは感じません。某新宿の防湿庫さんのレビュー記事で、アポエルマー3.5/180を手持ちで使う際にはシャッタースピードを1/1000くらいまで上げないとブレる、という記載があり購入前に戦々恐々としていたのですが、ズマリット70mmを使う分には1/125で十分止まります。アポエルマーとの組み合わせだと、何か共振周波数的なものに引っ掛かってしまうのでしょうか。

    ・購入前はファインダー内水準器に結構期待していたのですが、表示が小さく分解能も粗いのであまりあてになりません。特に縦位置撮影ではなかなか上手く使えません。自分でちゃんと水平をとったほうが良いです。グリッド付きのフォーカシングスクリーンに換装したいのですが5万円くらいするので気軽に変えられない…

    ・電池の持ちはなかなか良く、ミラーレス以上、国産レフ機未満といったところです。ですが厄介なことに電源OFF時の暗電流が大きいようで、バッテリーをつけたまま放置しておくと勝手にバッテリー残量がどんどん減っていきます。フル充電したバッテリーが数日で残量25%くらいになってしまいます…大抵この手のカメラはGPS機能や無線LANをOFFにしておけば現象が改善されるのですが、このカメラについては効果がないようです。仕方がないので保管時にはバッテリーを外しています。

    以上、雑感でした。

    おわりに

    本記事では、世界的にユーザーレビューの枯渇しているLEICA S(typ 007)に関する情報をとにかく増やすことを目的に、色んなことを乱文で書き殴ってしまいました。今後はCONTAX 645レンズの使用に関する記事を追加予定です。長文でしたが、最後までお読み下さった方々、ありがとうございました。

    LEICA S(typ 007) レビュー” に対して7件のコメントがあります。

    1. hamashun より:

      こんにちは。
      バッテリーを装着したままだと容量がどんどん減っていくとの部分ですが、私の個体だとそのような現象はおきていないので、バッテリーかボディのどちらかに何らかの要因があるかもしれません……。一度ライカストアで見てもらうのが良いのではと思いました……!

      1. ganjin より:

        コメント頂きありがとうございます。
        そうなのですね。ボディのほうは購入直前にライカカメラジャパンで点検されたものなので、もしかするとバッテリーの寿命が来ているのかもしれませんね。誤情報失礼しました。
        田舎暮らしなのでなかなかライカストアへ行けないのですが、一度銀座のストアには行ってみたいです…

        1. hamashun より:

          「そのような状態になる事がある」というのも貴重な情報だと思いますので、むしろ知れてありがたいです🙏

          一度電話かメールなどで問い合わせてみてはいかがでしょうか? 銀座か、あとは京都でも受け付けているようでした。
          https://leica-camera.com/ja-JP/contact?country_code=JP

          1. ganjin より:

            ご返信ありがとうございます。
            メールや電話ができることを失念しておりました…一度メールしてみたいと思います。ありがとうございます。

    2. みち より:

      コメント失礼致します。
      国内でLEICA Sの情報がないかと探している中、
      こちらのブログを発見致しました。
      とても参考になる話ばかりでありがとうございました。

      1. ganjin より:

        コメント下さりありがとうございます。ご参考にして頂けたのこと、大変嬉しいです。
        実は色々あって既に手放してしまったのですが、手放したことを後悔しております…機動力に優れ、動作も機敏な良いカメラでした。

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