HASSELBLAD X1D II 50C レビュー(後編)

本記事の概要

HASSELBLAD X1D II 50Cのレビュー(後編)です。前回更新から筆が進まずかなりの時間が経ってしまいました。前編では1度目の購入経緯と即売却に至った理由を、中編では紆余曲折を経て2度目の購入に至った経緯を書きましたが、今回の後編ではようやく機材レビューらしいことをやります。

Table of Contents

    前回(中編)のあらすじ

    一度は売却したHasselblad X1D II 50Cだったが、なんだかんだでもう一度試してみたくなったので再購入した。

    いきなりですが

    いきなりですが、この記事を書いている2022年1月現在、既にこのカメラは私の手元にありません正確には2021年10月に手放したので、このカメラが私の手元にあったのは約4ヶ月ということになります。その間に室内外で約600枚の写真を撮影したようです。事あるごとに持ち出すようにしていたのですが、この「4ヶ月で600枚」という枚数の少なさ(?)が、このカメラの性格(良く言えば「じっくり撮るのに向いている」、悪く言えば「シャッターチャンスに間に合わない」を表しているのかなと振り返ってみて改めて感じます。このような性格については1度目の購入(1週間で手放した)で既に分かっており、今回の購入ではそもそもシャッターチャンスを追い求めない運用を心がけていました(この辺りの抱負については前回の記事にも書いております)。その結果、カメラが結構手に馴染んできたところではあったので、正直なところ結構惜しい売却ではありました。じゃあなぜ売却したかというと…書き始めると長くなるので後述します。

    遅すぎるAFとの向き合い方

    X1D II 50C + XCD3.5-4.5/35-75

    このカメラを使用するにあたっての最重要ポイントは「遅すぎるAFといかに向き合うか」だと思います。一般的な対処法としては、

    1. 絞って撮る
    2. MFで合わせる
    3. 距離指標を活用しフォーカス位置をあらかじめ決めておく

    といった解があるかと思いますが、このX1D II 50CおよびXCDレンズでは残念ながら「絞って撮る」しか選択肢がありませんでした。なぜならEVFが見にくいのでMFは困難(拡大表示してもぼやけた画像が拡大されるだけ)、距離指標の活用についてはレンズがフォーカスバイワイヤで距離指標が無い(私の知る限り例外的にXCD4/45Pはメカニカルフォーカスですが電源OFF/ONでフォーカス位置がリセットされる)のに加え、ボディ側で表示可能な距離指標は分解能が粗すぎて参考にならないため実質不可です。前提としてカメラ側の設定はMFモード(シャッターボタン半押しではAFを作動させず、背面のAF-Dボタンを押している時だけAFが作動するようにする)にしておき、フォーカス位置は中央固定(タッチパッドAF機能はあるが、画面の反応が鈍くてストレスなので極力やらない)、絞りはf8〜11あたりにしておき中央でフォーカスを合わせた後、コサイン誤差は気にせずにカメラを振って構図を整えるというのが、私にとっては最もストレスの少ない運用方法でした。ちなみにX1D II 50Cのボタンは全て、日本製カメラのようなメンブレン的なヌルッとした押し心地ではなくカチっと押すタイプです。シャッターボタンについても日本製カメラの上級機種とは異なり、半押しと全押しの間に明確なクリックがあるタイプです。個人的には日本式のほうが好みです。ライカSLなどもハッセルと同じく「カチっと」タイプなので、何か日本と欧州で感触の好みに差があるのでしょうか。

    背面右上のAF-Dボタンを押している時だけAFが効くようにする。さもないとシャッターを半押しするたびにAFが迷って撮影にならない

    レンズについて

    このカメラ、上述のように結局「絞って使う」ことになるため、レンズの開放f値にはさほど意味が無くなってきます(開放が明るい方が勿論嬉しいですが)。よく言われる話ではありますが、ラージフォーマットのカメラに被写界深度の浅さを期待するのは間違いであるとつくづく感じます。このようなカメラが本来使われるべき(?)スタジオでのポートレート撮影などでも、多くのケースでは絞って撮ることになるわけですし、ハッセルブラッドのレンズラインナップの開放f値が比較的大きいのもうなずけます。

    私が実質的キットレンズとして最初に購入したのはXCD4/45Pでしたが、換算36mmという画角の難しさに加え小口径であることから、私のメイン被写体である風景と子供の撮影には使いにくいという印象を持ちました(風景にはちょっと狭いことが多いし、子供撮りにはちょっと広くてボケなさすぎる)。このレンズ、小型軽量を活かしスナップ撮影に…といった売り方がなされていますが、正直AFが遅いしMFも不自由なX1D II 50Cで使う分には、GRでやるような狭義のスナップ撮影には全く向かないと思います。そこで2本目のレンズとして比較検討したのがXCD2.8/65とXCD3.5-4.5/35-75です。前者と後者では値段が倍くらい違うため、正直物凄く悩みましたが、結局絞って使うのであれば多少暗くても画角の潰しが効く方が良いだろうと考え、後者を新品購入しました(これにより温存していたライカレンズ達が全て新宿の防湿庫へ旅立ちました)。これが大正解で、XCD3.5-4.5/35-75は結局売却の日までX1D II 50Cに付けっ放しとなりました。デカくて長くて重いのが唯一の欠点ですが、解像は文句無し、気になる歪曲も無し、AFが遅いのはボディのせいなので仕方無し。このレンズさえあれば、風景にポートレートに、X1D II 50Cを存分に楽しむことができるのではないかと思います。ちなみにレンズシャッターの音はXCD4/45Pよりちょっと鈍くて大きい「コキッ」という感じのくぐもった音です。

    (言わずもがなの)画質について

    X1D II 50C + XCD4/45P 1/250s, f11, ISO100

    あまりバキバキな解像感は無いといわれている(?)XCDレンズですが、個人的にはかなり解像するという印象を持っています。上の写真についても、漁船の質感をよく再現できており、どこかSIGMA DP2 Merrillで撮った写真を想起させます。

    X1D II 50C + XCD3.5-4.5/35-75 1/60s, f9, ISO100

    曇天下では、独特の湿度感や立体感が生まれます。上の写真もf9まで絞っていますがいい感じの奥行きが出ています。44×33mmと36×24mm、センサーの面積にそれほど差があるとは思えないのですが、やはり「中判」の面目躍如といったところでしょうか。また、ミラーレスかつレンズシャッターであることの恩恵か、シャッタースピード1/60sでもブレが全然気になりません。

    X1D II 50C + XCD3.5-4.5/35-75 1/750s, f8, ISO100

    晴天下の撮影では、圧倒的なディテールもさることながら、撮って出しで独特の空の青(私がアンダー気味に撮っているからかもしれませんが)とHDR撮影したかのような発色、コントラストが出ます。個人的にハッセルブラッドの最大の魅力はこの色再現精度ではないかと思います。ライカではオートWBで撮ると変な色になるような状況下でも、「これだ」という色を初めから出してくれます。作例は載せませんが人肌の再現もかなり良いです。

    これまた作例が無く恐縮ですが、高感度耐性は最新のフルサイズセンサーに比べるとそこまで高くないという印象です。ISO800くらいから拡大するとノイズが出始め、上記作例のような豊かな発色が心持ち失われてくるような気がします。しかし厳しい見方をしなければISO6400くらいまでは普通に「見れる」と言ってしまってよいかもしれません。

    手放した理由(光学ファインダーの楽しさ)

    さて、そんなこんなで、このひどく手のかかるハッセルXCDシステムに愛着を持ち始めていた私ですが、ある日きっぱりとこのカメラを再度手放す決心をしました。決心のきっかけになったのは、これまた一度手放し再購入したNIKON D850です。新宿の防湿庫からD850の中古美品を取り寄せた週末、画素数の近い物同士で撮り比べをしてみようと、私はX1D II 50CとD850を持って近くの山へ出かけました。最初にX1D II 50Cで撮影、次にカメラを変えて同じ画角・構図で撮ろうとD850のファインダーを覗いた時、光学ファインダーで見る景色ってこんなに綺麗だったっけと、それはもう完璧に、私の脳内に電流が走ったのでした。X1D II 50Cのファインダーに映った液晶画面と、光学ファインダー越しに見た世界には、見るからに明確な没入感の差があったのでした。写真の楽しみって、こういうことだったんじゃないかな、と。見えているものと撮れたものの露出が多少ずれていようが気にしない。画面を拡大して精密なピント合わせができなくても気にしない。写真ってもっとこう、物理的で身体的なものだったよなと、その時私は気づいてしまったのでした。その日家に帰ってX1D II 50CとD850の作例を見比べた私。うん、確かにX1D II 50Cのほうがちょっと良く撮れている気がする。でも、もう一度光学ファインダーでやり直してみるか。こうして私は光学ファインダーのデジタル中判カメラを探し始め、ひょんなことからLEICA S(typ007) をお迎えすることになったのですが、それはまた別のお話。

    おわりに

    本記事では、ようやく商品レビュー的な内容を書くことができました。しかし記事を書いている時点で既にレビュー対象のカメラを手放しているというのがいまいちですね。次回は、ハッセルの代わりに手に入れたLEICA S(typ007)の話を書きたいと思います。

    最後までお読みいただきありがとうございました。

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